中島敦 李陵
T@ 李陵 出陣 歩兵 戦闘 匈奴の戦法 武帝 英明 暴君 喜びと怒り
A 捕虜となる 自殺に失敗
匈奴 漢人に学ぶ 捕虜の優遇 大国 自足 中華思想 大国のおごり
U@ 武帝 群臣への猜疑 武帝の怒り 妻子の処刑 李陵の心
A 司馬遷 全躯保妻子 名君＝暴君 侫臣 李陵への非難 司馬遷の李陵擁護
B 司馬遷 宮刑 史記 書くということ
李陵 母妻子を族滅された怨 天地間の一微粒子のみ、何ぞまた漢と胡とあらんや
漢人的な偏見
150 漢の中郎将蘇武
A159 武帝の死 清冽な純粋な漢の国土への愛情 ＊160 己と友とを隔てる根本的なもの
B＊この世に生きることをやめた彼は書中の人物としてのみ活きていた。
C167 蘇武と別れた後の李陵
転向者としての中島敦
胡地 パラオの生活 中国 アジアと日本
「大東亜戦争」開戦前後
泰淳と敦
広い世界 胡地の風俗 漢人の偏見
国 忠誠 文化
現代と李陵
アメリカ ユニテラリズム 覇者 覇権主義
文明 ならず者
太宰治「走れメロス」 1940年5月 『新潮』
武田泰淳『司馬遷』1943年４月 日本評論社
中島敦 「李陵」1943年7月 『文学界』
転向 屈服 英雄
汪兆銘 ペタン
獄中18年の非転向の共産主義者
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[1]95 漢の武帝の天漢2年秋9月[BC87] ◆歩卒5000 ◆96 浚稽山 居延からでも1500里
96 毎年秋風が立ち始めると、決まって漢の北辺には・・・・
97 霍去病かくきょへいが死んでから18年、衛青が没してから7年。ｼ足野侯さくやこう趙破奴は全軍を率いて虜ろ に降り、・・・
98 年齢もようやく四十に近い血気盛り 輜重の役は余りに情けなかったに違いない。
臣願わくは少をもって大を撃たん。 ◆派手好きな武帝
99 路博徳 老将 今更若い李陵ごときの後塵を拝するのが何としても不愉快・・・
都へ使をやって奏上させた。・・・・李陵と共にここに越年し、春を待って・・・
武帝はこれを見ると酷く怒った。李陵が博徳と相談の上での上書と考えたのである。
100 今更辺地に行って急に怯気おじけづくとは何事ぞ・・・
指定されたこの数千里の行程は騎馬を持たぬ軍隊にとっては・・・
武帝 誤解 暴君 名君
100 武帝は決して庸主ではなかったが、同じく庸主ではなかった隋の煬帝ようだいや始皇帝などと共通した長所と短所とを有っていた。・・・・帝が一度言出したら、どんな我が儘でも絶対に通されねばならぬ。まして、李陵の場合は、元々自ら乞うた役割でさえある。(ただ季節と距離に・・・)・・・・かくて「騎兵を伴わぬ北征」に出たのであった。
101 浚稽山の山間には10日余 ◆102 十日もいる中に月は無くなった。空気の乾いているせいか、ひどく星が美しい。黒々とした山影とすれすれに、夜ごと、狼星ろうせいが青白い光芒を斜めに曳いて輝いて いた。・・・赤黄色い星が・・・・続いて二つ三つ四つ五つ、同じような光が・・・
104 戦闘の場面 105 鮮やかな勝ちっぷりではあったが、執念深い敵がこのままで退くことは決して無い。今日の敵軍だけでも優に三万はあったろう。・・・翌日は 8万の胡兵が騎馬の快速を利して・・・
106 女たちを殺す 澗間たにまの凹地に引出された女共の疳高い号泣がしばらくつづいた後、突然それが夜の沈黙に呑まれたようにフッと消えて行くのを、軍幕の中の将士一同は粛然たる思いで聞いた。
翌朝 敵の遺棄屍体三千余 連日の執拗なゲリラ戦術に久しくいら立ち屈していた士気がにわかに 奮い立った形である。・・・・匈奴はまたしても、元の遠捲戦術に還った。
平沙の中に時に見出される沼沢地の一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘も脛を没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原が続く。風上に廻った匈奴の一隊が火を放った。
108 単于は漢兵の手強さに驚嘆し、己に20倍する大軍を怯れずだ日に日に南下して我を誘うかに見 えるのは・・・伏兵
109 漢の軍侯、管敢 匈奴の軍に亡げ降った。かつて長安都下の悪少年だった男だが、前夜斥候上の手抜かりについて校尉・成安侯韓延年のために衆人の前で面罵され、笞打たれた。・・・先日渓間で斬に遭った女共の一人が彼の妻だったのだとも云う。
漢軍には後援が無い。矢もほとんど尽きようとしている。・・・・
武帝 群臣 全躯保妻子の臣 司馬遷
[2]114 武帝は思いの外腹を立てなかった。 本軍たる李広利の大軍さえ惨敗 李陵が必ずや戦死・・・陳歩楽だけは成行上どうしても自殺しなければならなかった。哀れではあったが、これはやむをえない。
◇翌天漢3年の春になって、李陵は戦死したのではない。捕えられて虜に降ったのだという確報・・・武帝は始めて嚇怒した。・・・・漢の勢威の絶頂に当って50余年間君臨したこの大皇帝は、その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗につきまとわれていた。それだけにその方面での失望・・・・
年と共に群臣への暗い猜疑 李蔡、青テキ、趙周と、丞相たる者は相ついで死罪に行われた。現在の丞相たり公孫賀のごとき、命を拝した時に己が運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。・・・・
116 李陵の処置について計った。・・・合法的に
◆◆誰一人として、帝の震怒を犯してまで陵のために弁じようとする者は無い。・・・・
117 ただ一人、苦々しい顔をしてこれ等を見守っている男がいた。今口を極めて李陵を讒誣しているのは、数ケ月前李陵が都を辞する時に盃をあげて、その行を壮んにした連中ではなかったか。漠北か らの支社が来て李陵の軍の健在を伝えた時、さすがは名将李広の孫と李陵の孤軍奮闘を讃えたのも また同じ連中ではないのか。恬てんとして既往を忘れたふりの出来る顕官連や、彼等の諂諛を見破るほどに聡明でありながらなお真実に耳を傾ける事を嫌う君主が、この男には不思議に思われた。・・・・
彼もまた下問 この男はハッキリと李陵を褒め上げた。◇◇◇◇◇◇◇◇
今不幸にして事一度破れたが、身を全 うし妻子を保んずるのみただ念願とする君側の佞人ばらが、この陵の一失を取上げてこれを誇大歪曲しもって上の聡明を蔽おうとしているのは、遺憾この上極まりない。そもそも陵の今回の軍たる・・・・
◇◇◇◇軍敗れたりとはいえ、その善戦のあとは正に天下に顕彰するに足る。思うに・・・・
118 こんな事のいえる男が世にいようとは考えなかったから・・・自分等をあえて全躯保妻子の臣と呼んだこの男を待つものが何であるかを考えて・・・
119 李陵の家族よりも司馬遷の方が先に罪せられることになった。 宮刑
司馬遷 史記の方法
120 後代の我々が史記の作者として知っている司馬遷は大きな名前だが、当時の太史令司馬遷は渺たる一文筆の吏に◇◇◇◇◇
◇四代目司馬談 律・暦・易の他に道家の教に精しくまた博く、儒、墨、法、名、諸家の説にも通じていたが、それらをすべて一家の見をもって綜べて自己のものとしていた。◇息子に施した最大の教育は、諸学の伝授を終えて後に、海内の大旅行・・・後年の歴史家司馬遷に資する
122 春秋 道義的批判の基準 事実 教訓よりも事実が・・・ 左伝 国語 なるほど事実はある。・・・・しかし、その事実を作り上げる一人一人の人間についての探求が無い。
◆◆◆◆事件 そうした事をしでかすまでに至る彼等一人一人の身許調べの欠けているのが・・・・未来の者に当代を知らしめるためのものとしての用意が余りに欠け過ぎているようである。
123 司馬遷 史記の方法
127 薄暗い蚕室の中で 驚きのようなもの ◆130 好人物というものへの腹立ち 自分自身
133 己のいかにとるに足らぬものだったかを沁々しみじみと考えさせられた。
134 盲目的な獣の苦しみに代って、より意識的な・人間の苦しみが始まった。
135 歓びも昂奮も無い・ただ仕事の完成への意志だけに鞭打たれて・・・・
悪霊にでも取り憑かれているようなすさまじさを、人々は緘黙せる彼の風貌の中に見て取った。夜 眠る時間をも惜しんで彼は仕事をつづけた。一刻も早く仕事を完成し、その上で早く自殺の自由を得たいとあせっているもののように家人等には思われた。
136 表現することの歓びだけは生き残り得るものだということを・・・・
李陵と蘇武 胡地の風俗 漢人の偏見
[3]李陵
142 左賢王の戦績 驚いた ◆143 激しい憤り 祖父の李広の最後
◆147 母妻子を族滅された怨うらみ 自ら兵を率いて漢と戦うことの出来ないのは
◆ああ、我もと天地間の一微粒子のみ、何ぞまた漢と胡とあらんやとふとそんな気がすることもある。
148 胡地の風俗
149 己が国を礼儀の国といい、匈奴の行をもって禽獣に近いと見做すことを・・・
149 胡俗の粗野な正直さの方が、美名の影に隠れた漢人の陰険さより遥かに好ましい場合が・・・
漢人的な偏見
150 漢の中郎将蘇武 北海（バイカル湖）のほとりで独り羊を牧していた
152 己が家族が戮せられて再び漢に戻る気持をうしなってからは
153 蘇武との会見 感動
◆154 なぜ早く自らの生命を絶たないのか
◆李陵自身が希望のない生活を自らの手で断ち切り得ないのは・・・・この意地 漢まで知られることを予期していない
159 武帝の死 慟哭 清冽な純粋な漢の国土への愛情 160 己と友とを隔てる根本的なもの
164 径万里兮度沙幕/為君将兮奮匈奴//路窮絶兮矢刃摧/士衆滅兮名已・(こざとへんに貴)//老母已死雖欲報恩将安帰
＊蘇武は19年ぶりで祖国に帰って行った。
★司馬遷はその後も孜々として書続けた。＊この世に生きることをやめた彼は書中の人物としてのみ活きていた。
167 蘇武と別れた後の李陵に就いては、何一つ正確な記録は残されていない。元平元年に胡地で死んだということの外は。
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中島敦 1909‐42(明治42‐昭和17)
なかじまあつし
小説家。東京生れ。東大国文科卒。祖父は漢学者中島撫山，伯父にも漢学者が多く，父は中学の漢文教師。1933年横浜高等女学校の教師となり，かたわら作家を志して習作にはげんだ。持病の喘息悪化のため，転地療養を兼ねて41年パラオの南洋庁に赴任するが，健康を害して翌年帰京。唐代の伝奇《人虎伝》を素材にした《山月記》が深田久弥の推恐で42年2月の《文学界》に掲載されて文壇にデビュー。同年5月発表の《光と風と夢》も好評で以後創作に専念。《光と風と夢》《南島譚》(ともに1942)と相次いで創作集を刊行するが，同年12月喘息のため没。43年《弟子》《李陵》が遺稿として発表された。戦時下の文学空白期に彗星のごとき光芒を放つ中島の文学は，格調正しい明晰な文体で，人間と運命との格闘・相克のドラマの中に生のありようを実存的に追求している。それらは今日の現実的な課題を数多くはらんでおり，夭折が惜しまれる。
鷺 只雄
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たけだ‐たいじゅん【武田泰淳】
小説家。東京生れ。東大中退。中国での戦争体験と仏教的世界観を根底に踏まえた
代表的な戦後派作家の一人。作「司馬遷」「風媒花」「快楽(ｹﾗｸ)」など。(1912 19
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ペタン【Henri Philippe P tain】
フランスの軍人。元帥。第一次大戦中ヴェルダン防衛で名をあげたが、一九四○年
第二次大戦の敗北に際し、対独協調のヴィシー政権を樹立。戦後、戦犯として終身
刑。(1856 1951)
おう‐ちょうめい【汪兆銘】ﾜｳﾃｳ‥
(Wang Zhao-ming) 中国の政治家。字は精衛。広東番禺の人。日本に留学、法政大学
卒。孫文の下で革命運動に従事。一九二七年武漢政府に拠って一時蒋介石に対立。
日中戦争中に反共親日の和平運動を起し、三八年重慶を脱出、抗日民族統一戦線を
裏切り、四○年いわゆる偽南京国民政府の主席となった。名古屋で病死。(1883 194
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